李鉉道SMHC株式会社 代表取締役

目次
「もう少しだけ頑張ろう。」
経営者も、管理職も、エンジニアも。
責任感が強い人ほど、疲れていても仕事を止めません。
不安がある。 眠れていない。 頭が回らない。
それでもPCを開き、会議に入り、メールやチャットに返信する。
私自身、経営をしていると「気合いで乗り切る」ことが必要な場面は確かにあると思っています。
しかし最近、逆のことも考えるようになりました。
「耐える力」が強すぎること自体が、経営リスクになるのではないか。
ストレスは「心」だけの問題ではない
このテーマを考えるきっかけになったのが、スタンフォード大学医学部で神経科学を研究するAndrew Huberman氏です。
Huberman氏は、スタンフォード大学医学部の神経生物学准教授で、脳の発達、視覚、ストレスとレジリエンス、神経可塑性などを研究しています。
重要なのは、
ストレスを単なる「精神論」で考えないこと。
ストレス反応にはコルチゾールなどが関与します。
短期的なストレス反応そのものは、人間が困難に対応するための正常な生理反応です。
問題になり得るのは、それが長期間続くこと。
American Psychological Association(APA)は、慢性的なストレスが身体の複数のシステムに影響し、長期的な健康問題につながり得ると説明しています。
つまり、
「自分はメンタルが強いから大丈夫」
だけでは片づけられない。
脳も身体の一部です。
だからこそ、「どこまで耐えられるか」ではなく、負荷をどう管理するかを考える必要があります。
優秀な人ほど「考え続ける」
経営者をしていると、仕事が終わっても仕事は終わりません。
会社を出ても、
「売上は大丈夫か」 「採用は間に合うか」 「あのプロジェクトは問題ないか」 「この判断は正しかったのか」
と、頭の中では経営会議が続いています。
ここで厄介なのは、
考えても変えられないことまで、考え続けてしまうことです。
だから私は、ストレスを感じたときほど、問題を2つに分ける考え方が実用的だと思っています。
① 自分ではコントロールできないこと
景気、為替、競合の動き、顧客の判断、他人からの評価、過去に起きてしまった出来事。
② 今、自分でコントロールできること
次の一手を決める。 顧客に一本電話する。 30分早く寝る。 スマホを閉じる。 明日の優先順位を3つだけ決める。
重要なのは、
①を考え続けることではなく、②に行動を戻すこと。
シンプルですが、経営にもかなり通じる考え方だと思います。
「強い人=耐え続けられる人」ではない
以前の私は、
強い人とは、何があっても耐えられる人
だと思っていました。
でも今は少し違います。
本当に強い人は、
「今は判断すべきではない」と判断できる人なのではないか。
疲労した状態で重大な意思決定をする。
感情的な状態で部下へ返信する。
深夜まで考え続ける。
焦ったまま投資判断をする。
経営では、このほうがよほど危険です。
休むことは仕事から逃げることではありません。
場合によっては、
意思決定の品質を守るためのリスク管理です。
これは個人の問題だけではない
WHOは、過剰な業務量、長時間・柔軟性のない労働時間、仕事に対する裁量の不足、雇用不安などを、職場におけるメンタルヘルス上のリスクとして挙げています。
さらにWHOによれば、
世界では、うつ病と不安によって年間約120億労働日が失われ、その経済損失は年間約1兆ドルに達すると推計されています。
これは「社員個人のメンタル管理」だけの話ではありません。
企業経営の問題でもあります。
だから、
「もっと頑張れ」
だけでは解決しない。
業務量、権限、マネジメント、コミュニケーション、AI・自動化まで含め、
人間が無理をし続けなくても成果を出せる組織を設計する。
そこまでが経営だと思っています。
AI時代だからこそ、「脳の使い方」が競争力になる
AIによって、私たちは以前より圧倒的に多くの情報を処理できるようになりました。
メールを書く。 資料を作る。 コードを書く。 調査する。 分析する。
どんどん速くなっています。
しかし、ここには一つの逆説があります。
仕事の処理速度が上がるほど、人間の脳を休ませる時間まで削ってしまう可能性がある。
AIが24時間働けるからといって、人間まで24時間働く必要はありません。
むしろこれから企業が考えるべきなのは、
「社員にAIを使わせること」だけではなく、
AIに仕事を渡し、人間の認知負荷をどう下げるか。
ここまで設計して初めて、本当のAI活用なのではないでしょうか。
経営者として、自分自身にも言い聞かせたい
会社を経営していると、
「自分が止まったら会社も止まる」
と思ってしまう瞬間があります。
でも会社が大きくなるほど、その発想そのものを変えなければいけない。
自分しか判断できない会社ではなく、 誰かに任せられる会社へ。
人間が頑張り続ける組織ではなく、 仕組みで回る組織へ。
そしてAI時代には、
人間がすべてを処理する会社ではなく、 AIと人間が、それぞれ得意な仕事をする会社へ。
「もっと頑張る」だけではなく、
「どうすれば、頑張り続けなくても成果が出るのか」
を設計する。
これも経営者の仕事だと思っています。
最後に。
限界まで耐えることを、強さと呼ばなくてもいい。
コントロールできないことを手放す。
一度PCを閉じる。
眠る。
そして明日、もう一度考える。
それは「逃げ」ではなく、
次の10年を戦うための、立派な経営判断かもしれません。
皆さんは、仕事のストレスを「根性」で乗り越えていますか?
それとも「仕組み」でコントロールしていますか?
参考データ・参考資料
Stanford Medicine|Andrew D. Huberman Andrew Huberman氏の公式プロフィール。神経生物学准教授としての所属、研究領域などを確認できます。
American Psychological Association|Stress effects on the body 急性・慢性ストレス、コルチゾールを含むストレス反応が身体へ与える影響について解説。
American Psychological Association|How stress affects your health 長期間にわたるストレスが慢性ストレスとなり、健康・ウェルビーイングへ影響することを解説。
World Health Organization|Mental health at work 過剰な仕事量、長時間労働、仕事への裁量不足などの職場リスクを整理。うつ病・不安によって世界で年間約120億労働日が失われ、約1兆ドルの生産性損失が生じているとの推計も掲載。
World Health Organization|Guidelines on mental health at work 職場のメンタルヘルスについて、組織への介入、管理職教育、従業員教育など、エビデンスに基づく対策をまとめたWHOガイドライン。
※本記事は医学的な診断・治療を目的としたものではなく、神経科学・ストレス研究および職場のメンタルヘルスに関する公開情報をもとに、経営・働き方の観点から考察したものです。
この記事は2026年9月21日にLinkedInで公開したものです。LinkedInの元記事でコメントする
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