李鉉道SMHC株式会社 代表取締役

Huaweiの「韜定律」が示す、中国半導体の新たな挑戦
最近、中国でHuawei(華為)が提唱した「韜定律(とうていりつ)」が大きな話題になっています。
しかし、この話題の本質は新しい言葉が生まれたことではありません。
本当に重要なのは、中国の半導体産業が長年向き合ってきた根本的な問いに対し、新しい答えを示し始めたことです。
※韜定律(Tau Law,“タウ法則”)
最先端の露光装置がなければ、中国半導体に未来はないのか
近年、中国の半導体産業は大きな制約に直面しています。
最先端のEUV露光装置、製造設備、材料、EDAソフトウェアなど、多くの重要技術が海外企業によって握られています。
そのため、
「最先端の露光装置が手に入らなければ、中国の半導体は永遠に後追いなのではないか」
という見方も少なくありません。
Huaweiが今回示したのは、
「必ずしもそうではない」
という考え方です。
半導体の競争軸が変わり始めている
これまで半導体産業は、ムーアの法則に沿って発展してきました。
より小さなトランジスタを作り、
より微細なプロセスを実現し、
より高性能なチップを生み出す。
7nm、5nm、3nmといった数字が競争力そのものを表していました。
しかし、この競争は年々難しくなっています。
トランジスタの微細化は物理的な限界に近づき、発熱やリーク電流、歩留まりなど新たな課題が次々と現れています。
さらに、先端プロセスの開発には莫大な投資が必要となり、限られた企業しか参入できない世界になっています。
「どれだけ小さいか」ではなく、「どれだけ速いか」
Huaweiが提唱する韜定律は、従来とは異なる問いを投げかけています。
これまでの問いは、
「トランジスタをもっと小さくできるか」
でした。
一方で韜定律は、
「データをもっと速く流せないか」
「信号の移動距離をもっと短くできないか」
「計算待ち時間をもっと減らせないか」
を重視します。
言い換えれば、
『幾何学的な微細化』から 『システム全体の最適化』への発想転換です。
実際、ユーザーが気にするのは3nmか5nmかではありません。
スマートフォンが快適に動くか。
AIが高速に推論できるか。
サーバーが素早く応答するか。
重要なのは「小さいこと」ではなく、「速いこと」なのです。
平屋を細かく区切る時代から、高層ビルを建てる時代へ
従来の半導体開発は、平屋の建物の中で部屋をどんどん小さく区切っていくようなものでした。
しかし、平屋が限界まで埋まったらどうするのでしょうか。
Huaweiの考え方はシンプルです。
無理に部屋を小さくするのではなく、建物そのものを高層化する。
つまり、
・先進パッケージング ・3D積層技術 ・チップレット設計 ・高速インターコネクト ・ソフトウェアとハードウェアの協調設計
を活用し、システム全体として性能を引き上げるという発想です。
これからは「部品競争」から「システム競争」へ
これまでの競争は、
「誰がより小さな部品を作れるか」
でした。
これからの競争は、
「誰がより優れたシステムを設計できるか」
へと移っていく可能性があります。
その意味で、これまで脇役とされてきた分野が重要性を増しています。
・先進パッケージング ・3D集積技術 ・チップ間接続技術 ・国産EDA ・システムソフトウェア
こうした領域が、今後の競争力を左右する鍵になるかもしれません。
韜定律の本当の意味
Huaweiは2031年までに、高性能チップの性能密度を「1.4nm相当」の水準まで引き上げられる可能性があると述べています。
ここで重要なのは「相当」という言葉です。
物理的に1.4nmを実現するという意味ではありません。
システム全体を最適化することで、1.4nm世代に近い性能を実現するという考え方です。
つまり、
「露光装置が不要になった」
という話ではなく、
「露光装置だけが唯一の解ではない」
という発想なのです。
中国半導体が目指しているもの
Huaweiによると、この考え方に基づき、過去6年間で381種類のチップを設計・量産してきたといいます。
もちろん、韜定律は魔法ではありません。
先端プロセス、EDA、パッケージング、放熱技術など、解決すべき課題はまだ数多く残っています。
しかし、中国半導体は今、
「より小さなトランジスタを追いかける競争」
から、
「システム全体で価値を生み出す競争」
へと視点を広げ始めています。
経営視点で見た最大の示唆
この話は半導体業界だけの話ではありません。
本質は、
「制約があるから成長できない」
のではなく、
「問題の定義そのものを変えられるか」
にあります。
他社が作ったルールの中で追いかけ続けるのか。
それとも、自ら新しい競争軸を作るのか。
Huaweiの韜定律が示しているのは、単なる技術論ではなく、競争戦略そのものの転換です。
そしてそれは、AI時代を迎えるすべての企業にも共通する重要な示唆と言えるでしょう。
この記事は2026年6月4日にLinkedInで公開したものです。LinkedInの元記事でコメントする
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