李鉉道SMHC株式会社 代表取締役

「Giverを増やせ」では、強い会社はつくれない。
Adam Grant『Give and Take』を、経営と組織設計に翻訳して考えたこと「成果を出した人」を評価する。
多くの会社は、ここまではできています。
では、
「周囲の成果を引き上げた人」を、私たちは本当に評価できているでしょうか。
逆に、自分の数字は出している。 しかし、情報を囲い込み、人の成果を自分の成果として扱い、周囲を消耗させる。
そんな人まで「優秀な社員」と評価していないでしょうか。
最近、Adam Grantの『Give and Take』を改めて読み返しながら、経営者として強く考えさせられました。
この本のメッセージを、私はこう理解しています。
「与える人になろう」という道徳論ではない。
成功には「第4の要素」がある
私たちは成功を考えるとき、
才能 × 努力 × 運
で説明しがちです。
しかしGrantは、そこにもう一つ重要な要素があると指摘します。
それが、
「他者とどう関わるか」
です。Adam Grant
添付資料でも、この点を「成功の方程式の第4の要素」として整理しています。 Strategic_Giving
Grantは、人との価値交換のスタイルを大きく3つに整理します。
Takerは、できるだけ多く受け取り、できるだけ少なく返そうとする。
Matcherは、受け取った分と同程度を返し、公平な交換を重視する。
Giverは、紹介、助言、知識共有、メンタリングなどを通じて、直接の見返りを求めず他者に価値を提供する。
ただし、ほとんどの人が完全なGiverやTakerというわけではなく、状況によって行動は変わります。Knowledge at Wharton
ここは非常に重要です。
人をラベル付けする話ではありません。
見るべきなのは、 その人がどんな行動を繰り返しているかです。
一番興味深いのは、Giverが「最下位」にも「最上位」にもいること
『Give and Take』で最も面白いのはここだと思います。
Grantの研究では、Giverは成果の低い層に多く見られる一方で、成果の高い層にも多く見られると説明されています。Knowledge at Wharton
つまり、Giverだから成功する
という単純な話ではありません。
むしろ、与え方を間違えたGiverは、失敗する。
という話でもあります。
添付資料でも、Giverが最下層と最上層の両方に現れるというパラドックスが整理されています。 Strategic_Giving
自己犠牲型Giverは、会社にとっても危険
頼まれたら断れない。
人の仕事を全部引き受ける。
自分の業務を止めてでも助ける。
一見すると、非常に「いい人」です。
しかし、それを続ければ、
時間がなくなる。 成果が落ちる。 疲弊する。 やがて燃え尽きる。
Grantはこのリスクを明確に指摘しています。
一方で、成功しやすいGiverは、他者を助けながらも、自分の利益や持続可能性も無視しません。
Grantはこれを “otherish giver” と表現しています。
「他者への関心」と「自分自身への関心」を両立する人です。Knowledge at Wharton
つまり、
自己犠牲する人ではなく、持続可能な形で他者に価値を提供できる人。
ここが大きな違いです。
「5分でできる貢献」という考え方
Grantが紹介している考え方の一つに、 “five-minute favor” があります。
問いはシンプルです。
「相手にとって価値が大きく、自分にとってコストが小さい支援は何か?」
例えば、
人を1人紹介する。 参考になる資料を送る。 短い助言をする。 知っていることを共有する。
重要なのは、
何でも引き受けることではありません。
高い価値を、低いコストで提供する。
これなら、Givingは持続可能になります。Knowledge at Wharton
Takerは、本当に得をするのか
短期的には、Takerが勝つことがあります。
人から情報を集める。
他人の成果を利用する。
自分の利益を最優先する。
短期間だけ見れば、合理的に見えることさえあります。
しかし、長期になると問題が起きます。
信頼を失い、
協力を失い、
評判が広がる。
ここで重要な役割を果たすのがMatcherです。
Grantは、Matcherは公平性を重視するため、Takerが他人を利用して得をすることを嫌い、逆にGiverが報われないことも嫌うと説明しています。
そのため、MatcherがTakerを抑制し、Giverを支援する方向に働くことがあります。Knowledge at Wharton
組織の中では、これは非常に重要な力だと思います。
経営者として一番考えたのは、評価制度です
ここからが、私にとって一番重要でした。
多くの会社は、
売上。 粗利。 プロジェクト成果。 個人KPI。
こうした数字で人を評価します。
もちろん必要です。
しかし、それだけで十分でしょうか。
例えば、Aさんは売上を作った。
でも、後輩を育てない。 ナレッジを共有しない。 他部署を助けない。 情報を囲い込む。
一方でBさんは、
自分の成果を出しながら、 若手を育て、 知識を共有し、 他のプロジェクトも支援する。
従来型の評価制度では、 AさんとBさんの差が十分に見えないことがあります。
私は、ここに組織設計上の大きな問題があると思っています。
「成果」だけではなく、「他人の成果への貢献」も評価する
今、私自身も次の組織設計を考える中で、
粗利貢献 顧客貢献 メンバー育成 ナレッジ共有 他プロジェクト支援
といった要素を、どう評価制度に組み込むかを検討しています。
ただし、ここで一つ条件があります。
自己犠牲を評価しないこと。
他人を助けるために、自分の担当業務が崩れる。
顧客成果が落ちる。
採算を壊す。
それでは、持続可能ではありません。
だから、私が目指したいのは、
成果を出しながら、他者も成功させる人が最も評価される組織。
です。
Giverを増やすだけでは足りない
会社が、
「助け合いましょう」 「Giveしましょう」
と言うだけでは、私は不十分だと思っています。
むしろ危険です。
なぜなら、Givingを奨励するだけでは、
一部の人に負担が集中する可能性があるからです。
必要なのは、
Givingを文化ではなく、仕組みにすること。
例えば、
誰が後輩を育てたのか。
誰がナレッジを共有したのか。
誰が他プロジェクトを支援したのか。
誰が周囲の成功確率を上げたのか。
こうした行動が見えるようになり、 評価され、 報われる。
逆に、
情報を囲い込む。
他人の成果を自分のものにする。
助けを受けるだけで返さない。
こうした行動が、組織の中で得にならないようにする。
これが、本当の意味での「Giving Culture」だと思います。
そしてもう一つ、人を「Taker」と決めつけない
これは経営上、かなり重要だと思います。
「この人はGiver」
「この人はTaker」
と人そのものを分類する。
私は、これはやらない方がいいと思っています。
Grant自身も、人は状況によってGive / Take / Matchの行動を変えると説明しています。Knowledge at Wharton
だから評価すべきなのは、
人格ではなく行動。
例えば、
情報共有をしているか。
他者の成果を尊重しているか。
助けを受けたときに還元しているか。
他人を支援しながら、自分の成果も守っているか。
こうした「観測可能な行動」で見る。
その方が、公平です。
そして経営としても再現性があります。
強い組織とは、スター社員がいる会社ではない
経営をしていると、
「優秀な人を採用したい」
という言葉をよく使います。
でも最近、私は少し違う見方をしています。
本当に強い組織とは、
一人のスターが100を出す組織ではなく、 一人の存在によって周囲の10人が110になる組織ではないか。
自分だけが成果を出す。
それも価値です。
しかし、
自分が成果を出しながら、周囲の成果まで引き上げる。
その人が増えれば、
組織の総生産性は大きく変わります。
Grantが示しているGiverの強さは、 まさにここにあるのだと思います。
私が『Give and Take』から経営に持ち帰ったこと
この本を経営に翻訳すると、私はこうなります。
「与える人を増やせ」ではない。
そして、もう一歩進めるなら、
「自分の成果」と「他人の成果」を同時に高める人を、最も評価する。
これが、これからの組織には必要なのではないでしょうか。
世界を、
「奪い合うパイ」
として見るのか。
それとも、
「一緒に大きくできるパイ」
として見るのか。
会社の文化は、 経営者が何を評価するかで決まります。
皆さんの会社では、
「成果を出した人」だけでなく、 「周囲の成果を引き上げた人」も、きちんと評価されていますか?
参考 Adam Grant, Give and Take 公式紹介 Adam Grant Knowledge at Wharton, Adam Grant本人インタビュー
この記事は2026年10月19日にLinkedInで公開したものです。LinkedInの元記事でコメントする
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