李鉉道SMHC株式会社 代表取締役

目次
もし、あなたの会社に「10人のAI社員」がいたら、最初にどの仕事を任せますか。
この問いは、もはや未来の話ではなく、経営の現場で現実味を帯び始めています。
最近、象徴的な発言が話題になりました。
AIスタートアップMercor(マーコア)のブレンダン・フーディCEOが、ポッドキャスト番組で「現在、社内のAIエージェント向けトークン利用料が、従業員の給与総額を上回っている」と明かしたのです。同社は評価額100億ドル、従業員約300人の企業ですが、プロジェクト管理、採用、経理、不正検知といった業務にAIエージェントを組み込み、その運用コストがすでに人件費を超えたといいます。
フーディ氏はさらに、「5年以内に、平均的な企業はヘッドカウントよりもコンピュートに多くを支出するようになる」とも予測しています。
もちろん、MercorはAIネイティブ企業であり、現時点では例外的な存在です。しかし、この方向性そのものは無視できません。
この話を聞くと、多くの人はこう感じるかもしれません。
「AIはコスト削減や業務効率化のためのものではなかったのか。」
しかし、この話が示唆している本質は、請求額の大小ではありません。
企業が管理すべき経営資源そのものが変わり始めている可能性です。
「人を増やす」という発想だけではなくなる
これまで企業経営では、人員計画が組織運営の中心でした。
事業が成長すれば採用を行い、案件が増えれば人員を増やす。
経営者にとって最も重要な経営資源は「人」でした。
一方で、生成AIやAIエージェントの実用化が進み、一部の業務では新しい選択肢が生まれています。
従来は、
自分で行う
誰かに依頼する
という二択でした。
そこに、
「AIへ任せる」
という第三の選択肢が加わりつつあります。
その結果、これからの経営者は、人件費だけでなくAI利用コストやAI投資全体を含めて、「誰が・何を担うべきか」を設計する必要があると考えられます。
AIも「経営資源」として考える時代へ
Microsoftが毎年発表している「Work Trend Index」では、人間とAIエージェントによるハイブリッドチームを前提とした新しい組織像「Frontier Firm(フロンティア企業)」が提示されています。2026年版の調査では、AI活用の成果を左右するのは技術や個人のスキルではなく、文化・マネジメント・人材施策といった「経営がコントロールする組織要因」であることが示唆されました。
つまり、AIを人材と同じように「配置し、任せ、評価する」経営の仕組みが問われ始めているのです。
例えば、
高性能モデルを利用すべき業務
軽量モデルで十分な業務
AIエージェントへ委任できる業務
を整理することは、単なる技術選定ではありません。
経営資源をどのように配分するかという、マネジメントのテーマになりつつあります。
「トークン数」ではなく「価値」を管理する
多くの企業が目指すべきなのは、AI利用量を増やすことではなく、
AI活用によってどれだけ価値を創出できるか
という点です。
例えば、
誰も活用しない資料を大量に生成することは、AIを利用していても価値創出にはつながらない可能性があります。
一方、
カスタマーサポート
採用
営業
財務
ナレッジ共有
などの業務にAIを組み込み、品質向上や生産性向上につながれば、その投資は企業価値へ結び付く可能性があります。
重要なのは、
「どれだけAIを使ったか」ではなく、「AIがどれだけ価値を生み出したか」なのではないでしょうか。
モデル選びより重要なこと
生成AIについて語る際、
「GPTなのか、Claudeなのか、それともDeepSeekなのか」
という比較に注目が集まりがちです。
もちろんモデル選定は重要です。
しかし、それだけでは十分とは言えません。
AIが、
社内データ
業務フロー
権限管理
基幹システム
と適切に連携して初めて、継続的な価値を生み出す仕組みになっていきます。
同じAIを利用していても、
ある企業では文書生成に留まり、
別の企業では業務そのものが改善され続ける。
その差を生むのは、モデルの性能だけではなく、
組織設計や運用の仕組みであると考えています。
これからの管理職に求められる役割
AIの普及によって変わるのは、業務効率だけではありません。
組織設計やマネジメントのあり方も変化していく可能性があります。
これから管理職に求められるのは、
「何人の部下を管理するか」
ではなく、
人が担うべき仕事
AIへ委任できる仕事
人とAIが協働する仕事
を設計し続けることではないでしょうか。
人だけのチームを率いる時代から、
人とAIが共に価値を生み出すハイブリッドチーム
をマネジメントする時代へ移行しつつあるように感じています。
SMHCが目指していること
SMHCでは、AIを単なる効率化ツールとしてではなく、
価値を実装する技術
として位置付けています。
AI × IT × 医療を組み合わせ、
現場の課題を理解し、
業務・データ・AIを一体で設計する。
私たちが推進するFDE(Forward Deployed Engineer:顧客の現場に入り込み、業務とAIを一体で設計するエンジニアリングモデル)も、単なるシステム開発ではなく、企業や医療機関が継続的に価値を創出できる仕組みづくりを目指しています。
人月モデルから価値創造モデルへの転換も、その延長線上にあります。
最後に
AIが変えるのは、単なる業務効率ではありません。
企業が価値を生み出す仕組みそのものを見直す契機になるかもしれません。
これからの競争力は、
「AIを導入しているか」
ではなく、
人・AI・データ・業務プロセスをどのように設計し、価値へ結び付けられるか。
そこにあるのではないでしょうか。
もし皆さんの会社に「10人のAI社員」がいたとしたら、
最初に任せたい仕事は何でしょうか。
ぜひ皆さんの考えもお聞かせください。
この記事は2026年7月12日にLinkedInで公開したものです。LinkedInの元記事でコメントする
CEOブログ一覧に戻る

