李鉉道SMHC株式会社 代表取締役

AIは次のインターネットではない。むしろ「不動産」に近い。
AI市場について議論するとき、多くの人は「インターネット革命の再来」と表現します。
一方で、AI産業の構造を俯瞰すると、インターネットよりも不動産産業に近いという見方もできます。
この視点は、AI投資や企業戦略を考える上で示唆に富んでいます。
インターネットとAIは、利益構造が異なる
インターネットサービスは典型的なアセットライト型ビジネスです。
一度ソフトウェアを開発すれば、世界中のユーザーへ同じサービスを提供できます。
ユーザーが100万人増えても、ソフトウェアを一から作り直す必要はなく、追加コストは比較的小さく抑えられます。
一方、AIは事情が異なります。
利用者が増えるほど、
GPU
電力
ストレージ
ネットワーク
データセンター
といった物理インフラへの投資も拡大します。
需要の増加と供給能力の増強が連動する構造は、不動産市場に似ています。
住宅需要が伸びれば、
土地を取得し、 建材を調達し、 建物を建設する必要があるのと同じです。
テック企業は「インフラ企業」へ変わりつつある
近年、Microsoft、Google、Amazon、Metaなどの大手テック企業は、巨大なデータセンターへの投資を加速させています。
GPUの確保や計算資源の拡充は、AI競争力を支える重要な基盤となっています。
不動産会社が販売するのが「建物」であるなら、
AI企業が提供しているのは「計算能力(コンピューティングリソース)」です。
違いは、
建物が地上に建てられるか、
データセンター内に構築されるか、
という点にあります。
さらに上流へ目を向けると、不動産業界では必ずしもデベロッパーだけが利益を得るわけではありません。
建材、建設機械、資材供給などの周辺産業にも大きな需要が生まれます。
AI市場でも同様です。
GPU、ストレージ、光通信、液冷設備、電力設備、ネットワークなどは、AI時代の「鉄筋・セメント・建設機械」とも言える存在です。
データセンター建設が続く限り、こうした領域には継続的な需要が生まれる可能性があります。
つまり、AI産業の第一段階は、大規模なインフラ構築フェーズと捉えることができます。
「建物」は完成しても、すぐには住めない
しかし、建物が完成しただけでは生活は始まりません。
AIも同じではないでしょうか。
ここ数年、
モデル性能の向上
推論速度の高速化
コンテキスト長の拡張
コスト低下
といった進歩が続いています。
これらは重要な進展です。
しかし、多くの企業では、
GPTを導入しただけで生産性が自動的に向上するわけではありません。
Claudeを導入しただけでコストが自然に下がるわけでもありません。
大規模言語モデルは、例えるなら「スケルトン物件」のようなものです。
建物は完成していても、
配線
設備
内装
家具
動線設計
が整わなければ、快適に利用することはできません。
企業が求めているのは「AI」ではなく「使えるAI」
企業が本当に必要としているのは、AIアカウントではありません。
必要なのは、
実際の業務課題を解決できる仕組みです。
そのためには、
社内ナレッジとの接続
基幹システムとの連携
業務フローへの組み込み
顧客データとの統合
権限管理
セキュリティ設計
まで含めて初めて「実用的なAI」と言えます。
AI導入は、ツールを購入することではなく、業務へ定着させることが本質です。
次の競争は「AIエージェント」の実装力
この視点に立つと、AI産業の次の成長機会は、
より高性能なモデル競争だけではなく、
AIを企業がすぐに活用できる形へ実装することにあると考えられます。
ここで重要になるのがAIエージェントです。
もし大規模言語モデルが建物の骨組みなら、
AIエージェントは、
内装業者
管理会社
コンシェルジュ
の役割を担います。
モデルを業務へ組み込み、
タスクを分解し
必要なツールを呼び出し
情報を取得し
ワークフローを実行し
成果物を提出する
こうした一連のプロセスを自律的に実行できるようになります。
単なるチャットボットではなく、実際の業務を担う「デジタル社員」に近づいていくでしょう。
AI時代の競争力は「モデル」ではなく「利益への変換力」
今後の競争力は、
「最も高性能なモデルを保有している企業」ではなく、
AIを利益へ変換できる企業に移っていく可能性があります。
起業家にとっても示唆があります。
新たな大規模言語モデルをゼロから開発するには莫大な投資が必要です。
一方で、
営業、
カスタマーサポート、
採用、
経理、
契約、
プロジェクト管理など、
特定業務へAIを深く実装する余地はまだ数多く残されています。
企業が「すぐ使える」ソリューションを提供できれば、
省人化、
業務効率化、
生産性向上につながる可能性があります。
これは、AI時代における「リフォーム・内装ビジネス」と言えるかもしれません。
AI導入は「購入」ではなく「実装」である
企業経営者が確認すべきことも明確です。
AIアカウントを導入したかではなく、
業務プロセスへ組み込まれているか
社内データと連携しているか
安定運用できているか
権限管理やセキュリティが設計されているか
これらが整って初めて、AIは経営資産になります。
そうでなければ、
AIを導入したのではなく、
「スケルトン物件を購入しただけ」という状態かもしれません。
経営者としての考察
SMHCでもAIを単なるツールではなく、「業務へ実装する技術」と捉えています。企業価値を高めるのは、最新モデルを導入した事実ではなく、AIを既存システムや業務プロセスへ安全に組み込み、継続的に成果を生み出す仕組みです。今後は、AIエージェントや業務自動化の普及によって、「導入した企業」と「利益へ転換できた企業」の差が一層広がる可能性があります。だからこそ、AI・IT・業務理解を横断できる人材の育成や採用が、企業競争力の重要な要素になると考えています。
まとめ
過去数年間でAI業界は、「建物の骨組み」を急速に築いてきました。
これから問われるのは、その骨組みを企業が実際に活用できる形へ仕上げる力です。
AI市場の価値は、モデル性能だけではなく、「現場で成果を出せる実装力」へと移りつつあるのではないでしょうか。
皆さんの会社では、AIを「導入」する段階から、「利益を生む仕組み」へと進化させる準備はできていますか。
ハッシュタグ
#AI #生成AI #AIエージェント #DX #経営 #業務改革 #BtoB #SMHC
本記事の「AIを不動産に例える」という内容は比喩による考察です。一方で、Microsoft、Google、Amazon、Metaなどが近年、AI向けデータセンターや計算インフラへの大規模投資を拡大していることは各社の決算資料・公式発表で確認できます。また、GPU・電力・ネットワークなどのインフラ需要がAIの普及とともに増加していることも、各社の開示資料や業界レポートで広く報告されています。記事中の将来予測については、現時点での市場動向を踏まえた見解であり、将来を保証するものではありません。
この記事は2026年7月13日にLinkedInで公開したものです。LinkedInの元記事でコメントする
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