李鉉道SMHC株式会社 代表取締役

目次
Amazon CEOのアンディ・ジャシー氏が、AI市場について非常に重要な見通しを示しました。
「すでに見えている2028年の需要は、驚くべきもの(striking)だ」
この発言で重要なのは、単なるAIブームの話ではありません。
実際の発言は、Amazonの決算説明会および公式トランスクリプトで確認できます。 aboutamazon.com
また、Amazonは2026年の設備投資見通しを約2,200億ドルへ引き上げています。投資の大部分はAI・クラウド関連インフラに向けられる一方、ロボティクス、半導体、衛星などへの投資も含まれます。
この設備投資規模については、以下の決算資料で確認できます。 sec.gov
それほど巨額の投資を行っても、ジャシー氏は2026年にすでに見えている需要をすべて満たすだけのキャパシティはなく、2027年も同様になる可能性があるとの見通しを示しています。
そして、すでに見えている2028年の需要について「striking」と表現したのです。
これは「AIバブルかどうか」という議論とは、少し違う景色が見え始めていることを意味しているのではないでしょうか。
AI需要の主役は「モデル開発」だけではない
これまでAI競争というと、
OpenAIやAnthropicなどのフロンティアAI企業
より高性能なモデル
GPUの確保
巨大データセンター
モデルの学習コスト
といった話が中心でした。
しかし、私はこれからのAI需要を考えるうえで、もう一つの巨大な市場を見る必要があると思っています。
それが、
「企業の日常業務に組み込まれるAI」
です。
世界中の企業には、営業、カスタマーサポート、ソフトウェア開発、財務、データ分析、マーケティング、リスク管理など、膨大な業務プロセスがあります。
これらにAIエージェントが入り始めれば、AIの利用量そのものが大きく変わります。
実際、Amazonだけではありません。
Microsoftは2026年度第3四半期に、AI事業のARR(年間経常収益)が370億ドルを超え、前年比123%増になったと説明しています。 microsoft.com
GoogleもAI需要がGoogle Cloudの成長を牽引していると説明しており、企業におけるAI活用は「実験」から「実装」へ移り始めています。 abc.xyz
「AIツール」から「AIエージェント」へ
これまで企業がソフトウェアを導入する目的は、
「人間の仕事を効率化すること」
でした。
しかしAIエージェントが進化すると、その考え方が変わる可能性があります。
人間がAIを操作するだけではなく、
AI自身が業務を理解し、ツールを呼び出し、複数のステップを実行し、一定の仕事を完結させる。
いわば「デジタルワーカー」、あるいは比喩的に言えば「AI社員」です。
もちろん、現時点ですべての業務を自律的に任せられるわけではありません。
精度、セキュリティ、権限管理、監査、責任の所在など、企業導入にはまだ多くの課題があります。
特に顧客情報、機密情報、医療情報などを扱う企業では、単純に「AIに任せればいい」という話ではありません。
だからこそ重要になるのは、AI導入そのものではなく、ガバナンスを確保しながら、どの業務をAIへ移管するのかを設計する力だと思います。
次の「スーパーアプリ」を探すだけでは不十分かもしれない
「AI時代の次のキラーアプリは何か?」
という議論をよく耳にします。
しかし、AIの巨大な経済価値は、まったく新しいアプリを一つ生み出すことだけではないかもしれません。
むしろ、
すでに存在するすべてのソフトウェア、すべての業務プロセスにAIが入っていく。
こちらの方が大きな変化になる可能性があります。
営業にAI。 開発にAI。 採用にAI。 財務にAI。 経営管理にAI。 カスタマーサポートにAI。
そう考えると、AI市場は「一部のAI企業の市場」ではなく、あらゆる産業の生産性を再設計する市場になっていきます。
AI需要には「2つのエンジン」がある
私は、これからのAI需要には大きく2つのエンジンがあると考えています。
第1のエンジンは、フロンティアAI。
より高性能なモデルを開発し、AI能力の限界を押し広げていく。
AIを「より賢くする」エンジンです。
第2のエンジンは、Enterprise AI。
企業の実際の業務へAIを組み込み、AIエージェントによって仕事そのものを再設計していく。
AIを「より使えるものにする」エンジンです。
前者がAI能力を高め、後者がAIの利用範囲を広げる。
この2つが同時に拡大すれば、AIインフラへの需要が今後さらに大きくなるというAmazonの見通しにも一定の合理性があります。
ただし、「AI需要増加=すべてのAI投資が成功」ではない
ここは経営者として冷静に見る必要があります。
巨額のAI需要が存在することと、AIへ投資したすべての企業が利益を得られることは、まったく別の問題です。
これから企業間で問われるのは、
「AIを導入しているか」ではない。
「AIをどれだけ利益と生産性に変換できているか」
だと思います。
例えば経営KPIも、
「AI利用率」だけでは不十分です。
見るべきなのは、
AIによる削減工数
AIが担当する業務プロセス数
一人当たり生産性
一人当たり粗利
AI起点の売上
AIへの業務移管率
といった、経営成果に直結する指標です。
2028年に向けて企業が準備すべきこと
AIを使える社員を増やすだけではなく、
「人間+AIエージェント」を前提として、会社そのものを再設計する。
これが次の企業競争になるのではないでしょうか。
これまで企業の競争力を決めていたのは、
「優秀な人材を何人採用できるか」
でした。
これからはそこに、
「優秀なAIエージェントを、どれだけ業務に組み込めるか」
という新しい競争軸が加わります。
ただし、AIエージェントの数を増やすこと自体が目的ではありません。
重要なのは、
人間にしかできる仕事を人間へ。 AIが得意な仕事をAIへ。
そして、その組み合わせによって組織全体の生産性を高めることです。
Amazon CEOの「2028年の需要はstriking」という発言が示しているのは、単なるデータセンター需要の話ではないのかもしれません。
AIが「使うツール」から「仕事を担う存在」へ変わったとき、企業の組織構造そのものが変わる。
私は、ここに2028年以降の大きな経営テーマがあると考えています。
皆さんはどう考えますか?
未来のAI最大市場は、少数の巨大AI企業でしょうか。
それとも、世界中の企業で働く何億ものAIエージェントでしょうか。
主な確認資料(ファクトリンク)
Amazon 2026 Q2 Earnings Call(Jassy発言含む) aboutamazon.com
Amazon IR / SEC Filing(設備投資・CapEx) sec.gov
Microsoft FY2026 Q3 Earnings(AI ARR 370億ドル) microsoft.com
Alphabet / Google Cloud Earnings abc.xyz
※「AI社員」「デジタルワーカー」およびAI需要の「2つのエンジン」という表現は、上記の企業発表を踏まえた将来像・筆者の考察であり、各社が将来を保証・断定したものではありません。
この記事は2026年8月18日にLinkedInで公開したものです。LinkedInの元記事でコメントする
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