李鉉道SMHC株式会社 代表取締役

目次
大学ではAIを使うと怒られる。会社ではAIを使えないと評価されない。
これは、単なる「大学教育の遅れ」の話ではありません。
私はむしろ、企業の人材育成そのものを再設計しなければならないという警告だと捉えています。
「AIを使うこと=不正」という教育現場
デロイトのアジア太平洋地域CEO、ロブ・ヒラード氏は、Bloombergとのインタビューで興味深い問題を提起しています。
大学を卒業して職場に入ってくる若者の中には、
「AIを使うこと=不正行為」
という認識を持っている人がいるというのです。
ヒラード氏は、
「あまりにも多くの人が、この技術を不正行為だと見なしている」
と指摘し、この認識を変える必要があると述べています。
しかし、企業の現場では逆の変化が起きています。
これから問われるのは、
「AIを使ったのか?」
ではなく、
「AIを使って、どんな価値を生み出したのか?」
だからです。
57%の学生は、すでにAIを使っている
GallupとLumina Foundationによる2026年の調査では、米国の大学生3,801人のうち、
57%が授業でAIを少なくとも週1回利用し、約5人に1人が毎日利用していました。
その一方で、
42%は学校がAI利用を推奨していないと回答し、11%はAIそのものが禁止されていると回答しています。
ここに大きなギャップがあります。
学生はすでにAIを使っている。 企業もAI人材を必要としている。 しかし、その間にある教育制度がまだ試行錯誤している。
ただ、私はこれを単純に、
「大学は時代遅れだ」
とは考えていません。
本当の問題は、企業側にある
AIを使えば何でもいいわけではありません。
AIにレポートを書かせて、本人は内容を理解していない。
AIが生成したコードを、そのまま本番環境に入れる。
AIの回答を検証せず、顧客へ提出する。
これでは、当然問題になります。
教育機関がAI利用に慎重になる理由も理解できます。
だから本当の論点は、
「AIを禁止するか、解禁するか」ではありません。
必要なのは、
AIなしでも考えられる力と、AIを使って能力を拡張できる力。
この両方をどう育てるかです。
そして、この問題は大学以上に、これから企業に突きつけられると思っています。
AIが「新人の仕事」を奪ったら、若手はどこで育つのか?
ここが、経営者として最も気になっているところです。
これまで若手社員は、
情報収集、データ整理、議事録、資料作成、テスト、簡単なコーディング。
こうした仕事を何度も経験しながら、
仕事の進め方、顧客理解、判断力、専門知識
を身につけてきました。
いわば「新人の仕事」は、単なる作業ではありませんでした。
将来のプロフェッショナルを育てる訓練場でもあった。
ところが生成AIやAIエージェントは、まさにこうした反復的・情報処理型の仕事を得意とします。
短期的に考えれば素晴らしいことです。
3時間かかっていた仕事が30分になれば、生産性は上がる。
コストも下がる。
しかし経営者として、もう一つ考えなければなりません。
若手の仕事をAIに置き換えたあと、5年後のPM、リーダー、アーキテクトは、どこで育つのでしょうか?
私はここに、AI時代の人材育成における大きな経営課題があると思っています。
AIによって仕事を減らすのではなく、「仕事の難易度」を上げる
例えば、若手社員に100ページの資料を読んで要約してもらう仕事があったとします。
以前なら、
読む → 整理する → 要約する → 上司へ報告する
でした。
これからはAIが数分で要約できます。
だったら、人間の仕事を一段上げればいい。
AIに要約させる → 原文と照合する → AIの間違いを見つける → 論点を整理する → 自分の見解を加える → 次のアクションを提案する
ここまでを新人の仕事にする。
つまり、
AIで新人の仕事をなくすのではなく、AIによって新人が早く高度な仕事へ挑戦できるようにする。
これが、AI時代のOJTになるのではないでしょうか。
「AIを使える人」の定義も変える
これから企業が評価すべきAI人材は、
「ChatGPTを使ったことがあります」
という人ではないと思います。
私は少なくとも、4つの能力が必要だと考えています。
① Use|AIに仕事を任せる力 仕事を分解し、適切な指示を出せる。
② Verify|AIを疑う力 出力を鵜呑みにせず、数字・事実・ロジックを検証できる。
③ Judge|AIを超えて判断する力 最後は自分の専門知識で意思決定し、結果に責任を持つ。
④ Govern|AIを安全に使う力 機密情報、個人情報、著作権、セキュリティなどの境界を理解する。
つまり、
AI Literacy = Use × Verify × Judge × Govern
AI時代に価値が上がるのは、単にAIを使える人ではなく、
AIと協働しながら、人間にしかできない判断まで持っていける人
ではないでしょうか。
AI時代、企業には「育成OS」の再設計が必要になる
PwCの「2026 Global AI Jobs Barometer」でも、AIへの露出度が高い仕事ほど必要スキルが速く変化しており、若手にも従来以上に高度な能力が求められる傾向が示されています。
これは採用だけの問題ではありません。
採用 → 配属 → OJT → 評価 → 昇格 → リーダー育成
この一連の仕組みそのものを、AIがいる前提で再設計する必要があります。
私はこれを、
「AI時代の育成OS」
だと考えています。
AIモデルやAIツールは、競合企業も利用できます。
同じようなAIを全員が使えるようになれば、AIそのものだけでは差別化できません。
最終的に企業の競争力を分けるのは、
AIを組織にどう実装し、人間の能力をどこまで引き上げられるか。
なのだと思います。
SMHCでも「AIを使える人」ではなく「AIで成長できる人」を育てたい
私たちSMHCも、IT・AI・医療という領域で事業を進めています。
だからこそ、採用や人材育成についても考え方を変えていきたいと思っています。
採用面接で、
「生成AIを使った経験がありますか?」
だけを聞くのではなく、
「AIを使って何を改善しましたか?」
「AIの回答が間違っていたら、どう検証しますか?」
「どこまでAIに任せ、どこから自分で判断しますか?」
と聞く。
そして入社後も、AIツールの操作方法だけを教えるのではなく、
AIを使って、より高度な仕事へ早く挑戦できる環境をつくる。
それをAI Academyや日々のOJT、評価制度までつなげていきたいと考えています。
目指したいのは、
「AIに仕事を奪われない人材」を育てる会社ではありません。
AIによって、自分自身の市場価値を高められる人材を育てる会社。
こちらです。
5年後のリーダーを、今日どう育てるか。
大学では、
「AIを使ったら不正ではないか?」
という議論がある。
企業では、
「なぜAIを使って生産性を上げなかったのか?」
という議論が始まっています。
でも、本当に重要なのは、その先だと思います。
AIを使うことを教えるだけでは足りない。
AIがいる世界で、人間がどう成長するのかを設計する。
AIによる短期的な生産性向上だけを追求して、若手の経験機会を消してしまえば、数年後にその代償を払う可能性があります。
だから経営者が考えるべき問いは、
「AIで何人分の仕事を削減できるか?」
だけではなく、
「AIによって、5年後のリーダーをどう育てるか?」
ではないでしょうか。
皆さんの会社では、AI導入と同時に、若手の育成方法まで再設計していますか?
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参考資料
・Business Insider “Graduates are coming into the workforce thinking that using AI is cheating, a top Deloitte exec says”
・Gallup / Lumina Foundation “AI Is Routine for College Students, Despite Campus Limits”
・PwC “2026 Global AI Jobs Barometer”
この記事は2026年9月6日にLinkedInで公開したものです。LinkedInの元記事でコメントする
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