李鉉道SMHC株式会社 代表取締役

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【海外AIレポート】北京に「Token工場」が誕生。AI競争は「モデル」から「知能インフラ」へ
北京で、少し変わった「工場」が動き始めています。
作っているのは、自動車でも、半導体でも、電気でもありません。
生産しているのは「Token」です。
2026年、北京・亦荘(イージュアン)に「北京壹号詞元工場(Token Factory)」が稼働しました。
北京市政府の発表によれば、第1期だけで、
1日あたり1.4兆Token
の処理能力を持ちます。
遠期目標は、さらに約7倍となる1日10兆Tokenです。
しかし、私が注目したのは「1.4兆」という数字そのものではありません。
もっと重要なのは、
北京がAIの「知能」を、電気や通信のような産業インフラとして設計し始めていることです。
「Token工場」とは何を作る工場なのか
生成AIを使うとき、入力された文章や生成される回答は、Tokenという単位で処理されます。
コード生成も、画像生成も、AIエージェントも、企業のAIシステムも、規模が大きくなれば大量のToken処理能力を必要とします。
北京のToken工場は、Tokenそのものを倉庫に保存する施設ではありません。
エネルギー、AIチップ、データ、AIモデルを統合し、
企業やユーザーからAIの要求が来たときに、大規模かつ安定して「知能」を供給するためのインフラ
と考える方が近いでしょう。
北京壹号詞元工場では、半数のタスクを6秒以内、90%を10秒以内で処理するという性能目標も示されています。
従来のデータセンターが「GPUや計算能力を貸す」場所だったとすれば、
Token工場はその先に進み、
「計算資源」ではなく「利用可能なAI能力」を供給する。
ここに大きな発想の転換があります。
AI時代の「発電所」を作ろうとしている
私は、この構想を見て「AI版の発電所」に近いと感じました。
産業革命では、
発電所が電気を作り、 送電網が電気を運び、 工場や家庭が電気を消費しました。
北京が構想しているToken経済も、非常によく似ています。
上流:Token工場 → 大量のAI処理能力を生産する。
中流:Tokenの「スーパー入口」 → 複数のモデル、モダリティ、計算基盤を統合し、最適なAIへリクエストを振り分ける。
下流:企業・ロボット・自動車・医療・製造業 → 実際のビジネスでTokenを消費する。
北京経済技術開発区は、これを
「工場がTokenを供給し、プラットフォームがTokenを分配し、コミュニティがTokenを使う」
という産業構造として整理しています。
これは単なるデータセンター政策ではありません。
「知能の生産 → 流通 → 消費」を一つの経済圏として作ろうとしている。
ここが重要です。
2030年までに「4つの万カード級Token工場」
2026年8月、北京経済技術開発区は「詞元十条」と呼ばれる政策を正式に発表しました。
2030年までの目標として、
・スマート経済産業規模:4,000億元超 ・計算能力:10万P超 ・万カード級Token工場:4カ所 ・AIエージェント研究開発・協業プラットフォーム:50以上 ・OPC(一人会社):5,000社超
などを掲げています。
さらに興味深いのが、企業に「AIを使わせる」ための政策です。
実際のビジネスでTokenを利用する企業に対し、条件に応じてToken消費費用の50%、最大500万元を支援する制度も盛り込まれました。
つまり、
「AI企業を誘致する」
だけではない。
AIを大量に消費する企業を育てようとしている。
需要側まで政策対象にしている点は、非常に興味深いと思います。
次に来るのは「AIエージェント経済」かもしれない
もう一つ、私が特に注目している政策があります。
AIエージェントによる自主決済です。
北京経済技術開発区は、AIエージェント決済の「規制サンドボックス」を検討しています。
将来的には、人間から一定の権限を与えられたAIエージェントが、
必要なAIモデルを呼び出す。
必要なツールを購入する。
別のAIエージェントに仕事を依頼する。
そして、自分で決済する。
そんな仕組みを想定しています。
たとえば人間が、
「この新商品の市場調査をして、LPを作って、広告を出して」
と指示する。
すると、
市場調査Agent → デザインAgent → 開発Agent → マーケティングAgent
が自律的に連携し、それぞれ必要なAIサービスを利用して決済する。
ここまで進めば、AIは「人間が使うソフトウェア」から、
経済活動を行う主体の一部
へ変わっていきます。
「一人会社+AIチーム」という新しい企業モデル
そして、この構想とセットで進められているのが、
OPC(One Person Company/一人会社)
です。
北京経済技術開発区は2030年までに、5,000社を超えるOPC関連事業体の集積を目指しています。
これは単に「フリーランスを増やす」という話ではないと私は見ています。
これまで会社を作るには、
営業 エンジニア デザイナー マーケター 経理
など、人間の組織が必要でした。
しかしAIエージェントが高度化すると、
1人の経営者+複数のAIエージェント
という企業が現実的になります。
一人が会社を経営し、その後ろでAIがコードを書き、資料を作り、営業を支援し、データを分析する。
「会社=人間の集合体」という前提そのものが変わる可能性があります。
日本企業にとって重要なのは「中国のToken工場」そのものではない
このニュースを「中国が巨大なAI施設を作った」で終わらせると、本質を見誤ると思います。
重要なのは、
AI競争の評価軸が変わり始めていることです。
これまでは、
「どのモデルが一番賢いのか」
が注目されてきました。
しかし企業がAIを本格的に業務へ組み込む段階になると、重要なのは別の指標になります。
① 使えるか ② 安いか ③ 速いか ④ 安定しているか ⑤ 既存業務につながるか ⑥ 安全に運用できるか
モデル性能だけではありません。
AIを企業活動の中に、どれだけ安く、安定して、大量に流せるか。
ここが競争力になります。
「モデルを持つ企業」より「知能を使いこなす企業」
私は、これから企業経営でも同じ変化が起きると考えています。
企業にとって重要なのは、
「ChatGPTを導入した」
「Geminiを導入した」
という話ではありません。
本当に問われるのは、
自社の業務プロセスに、どれだけAIによる知能を流し込めるか。
営業、採用、開発、経理、経営判断、顧客対応。
これらがAIエージェントによってつながったとき、企業の生産性そのものが変わります。
だから私は、AI競争の後半戦は、
モデル競争 ↓ インフラ競争 ↓ AIエージェント競争 ↓ 業務実装競争
へ進んでいく可能性が高いと見ています。
北京の「Token工場」は、その未来を少し先取りした実験なのかもしれません。
経営者として考えたいこと
もし将来、
「知能」が電気のように、必要なだけ購入できる社会
になったらどうなるでしょうか。
社員100人の会社と、社員10人+AIエージェント100体の会社。
どちらの生産性が高くなるでしょうか。
そして企業価値を決めるのは、
「社員数」なのか。
「売上」なのか。
それとも、
「どれだけの知能を、事業価値に変換できるか」
になるのでしょうか。
AI時代に再設計されるのは、ITシステムだけではありません。
会社そのものなのかもしれません。
皆さんは、Token=「知能」が電気のように使えるようになったとき、最初に大きく変わるのはどの業界だと思いますか?
参考資料
・北京市人民政府「北京経済技術開発区:Token駆動型スマート経済の高品質発展を支援する若干の措置(試行)」 ・北京市人民政府/北京日報「北京初のToken工場、1日1.4兆Token」 ・北京経済技術開発区「北京亦荘、Token経済に関する専門政策を発表」
※本稿は中国・北京で公表された政策・公式資料をもとに、筆者が日本企業・経営者の視点から考察した「海外AIレポート」です。「Token=知能」「AI版の発電所」などの表現は、政策文書そのものの定義ではなく、構造を理解するための筆者の解釈です。
この記事は2026年9月10日にLinkedInで公開したものです。LinkedInの元記事でコメントする
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