李鉉道SMHC株式会社 代表取締役

10人のAIネイティブ企業が、100人企業を倒す時代。
AI時代、スタートアップの最大の武器は「資本」ではなく「試行回数」になる。
Y Combinator CEOのGarry Tan氏の話を聞いていて、最も印象に残ったのは「AIでコードを書くのが速くなった」という話ではありません。
企業経営における「時間」と「資本」の意味そのものが変わり始めていることです。
Tan氏は最近、Claude CodeやCodexを使って、自身が2008年に立ち上げたスタートアップのコードベースを再構築しました。
約70,000行。
かかった時間は、わずか約90時間、2週間。
当時は5人のエンジニアと自身で作っていたものを、現在はAIを使いながら一人で再現し、本人によればコードベースの品質も以前を上回ったといいます。
重要なのは、
「5人の仕事を1人でできるようになった」
ことだけではありません。
もっと重要なのは、
「失敗するコストが劇的に下がった」
ことです。
2年かけた失敗と、2週間での失敗はまったく違う
これまでのスタートアップでは、一つのプロダクトを作るにも、
企画する。
資金を集める。
エンジニアを採用する。
設計する。
開発する。
テストする。
市場へ投入する。
そしてようやく、
「このプロダクトは市場に求められていなかった」
と分かることもありました。
ここまで1〜2年かかれば、簡単にはやり直せません。
しかしAIによって、Tan氏が言うように「2年分のプロダクト開発を2週間」に圧縮できる世界では、ゲームのルールが変わります。
仮説Aを試す。
違った。
捨てる。
仮説Bを試す。
また違った。
仮説Cを試す。
反応が出た。
そこへ集中する。
つまりAIが企業にもたらす最大の価値は、
「正解を教えてくれること」ではなく、「正解に到達するまでの試行回数を増やしてくれること」
なのではないでしょうか。
「資本で殴る」経営が通用しにくくなる
これまでテクノロジー業界では、巨額の資本を調達し、大量に人材を採用し、開発・営業・マーケティングへ一気に投資することが強力な競争戦略でした。
Garry Tan氏は、この発想を「capital as a bludgeon」と表現しています。
資本力を武器にして、規模で競争相手を圧倒する。
2010年代には非常に強力だったモデルです。
しかしTan氏は、2020年代半ばには状況が変化していると指摘しています。
実際、YCでは5〜6人程度のチームで、短期間に年間数百万〜1,000万ドル規模の売上へ成長する企業も出てきているとTan氏は説明しています。
AIによって「知的労働」の限界費用が下がっていけば、
100人採用できる会社より、10人で高速に意思決定し、AIを使って何十回も試せる会社の方が強い。
そんなケースが増えていく可能性があります。
AI時代の競争力は「人数」ではなく「Learning Velocity」
私はここが、日本企業にとって非常に重要だと思っています。
これまで会社の成長を、
売上が増える ↓ 人を増やす ↓ 組織を大きくする ↓ さらに売上を増やす
という形で考えることが多かった。
もちろん、人が不要になるわけではありません。
むしろAIによって一人ひとりの能力が増幅されれば、優秀な人材の価値はさらに高くなる可能性があります。
ただし、経営者が見るべきKPIは変わる。
社員数ではなく、1人当たりの生産性。
開発人数ではなく、リリースまでの日数。
会議回数ではなく、意思決定までの時間。
そして、
1年間に何回「仮説→実装→顧客検証→改善」を回せたのか。
私はこれを、
Learning Velocity(学習速度)
として見るべきだと考えています。
100人企業 vs 10人AIネイティブ企業
仮に100人企業が年間10回、大きなプロダクト仮説を検証できるとします。
一方、10人のAIネイティブ企業が年間100回検証できるとしたらどうでしょう。
資本、社員数、ブランド、オフィス、過去の実績。
これらでは100人企業が圧倒的に有利です。
しかし、市場から学習する回数だけは10人企業が10倍多い。
長期的には、この差が非常に大きくなる可能性があります。
もちろん「試行回数が多ければ勝てる」というほど単純ではありません。
YC自身も、ランダムにプロダクトを出して市場に答えを決めてもらうようなピボットを推奨しているわけではありません。
重要なのは、
速く作る × 顧客を見る × 学習する × 捨てる × また作る。
このループです。
SMHCも「人数を増やす会社」から「能力を増幅する会社」へ
これはSMHCにとっても他人事ではありません。
私たちはAI × IT × Healthcareを軸に事業を展開しています。
だからこそ、AIを単なる「開発効率化ツール」にしてはいけないと考えています。
目指すべきなのは、
AIを使って、一人ひとりの能力を増幅する会社。
エンジニアがAIと働く。
営業がAIと働く。
採用担当がAIと働く。
経営者もAIと働く。
そして会社全体の
「仮説→意思決定→実装→検証」
の速度を上げる。
人数を2倍にしなければ売上を2倍にできない会社ではなく、
同じ10人でも、以前の30人、50人に相当する価値を生み出せる組織をつくる。
これが、SMHCでAI活用やAI OSを進めている理由の一つでもあります。
AIは「コスト削減ツール」だけではない
AIの話になると、
「何人削減できるのか」
という議論になりがちです。
しかし、それだけではAIのインパクトを小さく捉えすぎていると思います。
本当に変わるのは、
企業が挑戦できる回数です。
以前なら5,000万円必要だった挑戦が500万円になる。
2年必要だった検証が2週間になる。
10人必要だったプロジェクトを2〜3人で始められる。
そうなれば、企業はもっと失敗できる。
そして、
たくさん失敗できる会社ほど、正解に早く到達できる。
AI時代の競争優位とは、
「一度で正解する能力」ではなく、
「誰よりも速く間違い、誰よりも速く学習する能力」
なのかもしれません。
これから企業を見るとき、
「社員は何人ですか?」
だけでは、その会社の強さを測れなくなるでしょう。
むしろ聞くべきなのは、
「その10人は、AIと一緒に1年間で何回挑戦できますか?」
なのだと思います。
100人いる会社より、10人で100回試せる会社。
AI時代、企業の強さを決める物差しそのものが変わり始めています。
参考元:uncappedpod.com
この記事は2026年9月19日にLinkedInで公開したものです。LinkedInの元記事でコメントする
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