李鉉道SMHC株式会社 代表取締役

目次
同じAIを見ているのに、なぜこれほど受け止め方が違うのか。
2025年、EdelmanがAIへの信頼を調査したところ、これほど大きな差が出ました。
同じAIを見ているはずなのに、なぜ55ポイントもの差が生まれるのでしょうか。
最近発表されたPew Research Center、Stanford HAI、Edelman、KPMG・University of Melbourneの調査を見ていくと、単なる「AIが好きか、嫌いか」では説明できない、興味深い違いが見えてきます。
米国では、若者のAIへの不安が急速に高まっている
まず、米国です。
Pew Research Centerが2026年6月に3,488人の米国成人を対象に行った調査では、18〜29歳で、「AIに対して、期待より不安のほうが大きい」
と答えた割合は、
2021年:31% ↓ 2026年:55% まで上昇しました。
反対に、
「不安より期待のほうが大きい」
という回答は、
25% → 11% まで低下しています。
さらに注目したいのが「仕事」です。
「今後20年間で、AIによって米国の仕事が減る」と考える18〜29歳は、
2024年:61% ↓ 2026年:73%
まで増えました。
これは若者だけではありません。
米国成人全体でも、
71%が「仕事は減る」 5%が「仕事は増える」
と回答しています。
つまり米国では、AIが社会に浸透する一方で、AIが雇用に与える影響への警戒も強まっている。
特に若い世代で、その変化が顕著になっています。
なぜ、若者ほど仕事を心配するのか
ここからは、このデータを見た私自身の考察です。
AIによって影響を受けやすい仕事を考えると、一つの問題が見えてきます。
文章作成、資料作成、基礎的なデザイン、情報収集、事務作業、データ分析。
こうした仕事の多くは、単なる「単純作業」ではありません。
これまで若手社員が社会に入り、仕事を覚え、経験を積むための「入口」でもありました。
経験豊富な社員にとってAIは、
「優秀なアシスタントが増えた」と感じられるかもしれません。
しかし、これから社会に出る若者からすれば、
「AIがその仕事をやるなら、自分はどこで経験を積めばいいのか?」
という問題になります。
私は、AI時代の経営において、この問題はかなり重要になると考えています。
AIによって若手の仕事を減らすことは、短期的には生産性向上になります。
しかし、若手が経験を積む仕事までなくしたとき、5年後の中堅社員をどう育てるのか。
これは企業側が考えなければならない、新しい人材育成の課題ではないでしょうか。
一方、中国ではまったく違う数字が出ている
Stanford Universityの「AI Index Report 2025」が紹介している国際調査では、
「AIを使った製品やサービスは、デメリットよりメリットのほうが大きい」
と考える人の割合は、中国:83% 米国:39%でした。
倍以上の差です。
そして、違いは「意識」だけではありません。
2026年のStanford AI Indexによると、2025年にAIを仕事で定期的、またはある程度定期的に利用している従業員は、世界全体では58%。
一方、中国を含む複数の国では、80%を超えています。
さらにKPMGとUniversity of Melbourneが47カ国・4万8,000人以上を対象に行った調査を見ると、中国では、
93%の従業員が仕事でAIを意図的に利用している
と回答しています。
AIは「いつか使う技術」ではなく、すでに仕事の中にかなり深く入っています。
しかし、中国人もAIを怖がっていないわけではない
ここが、今回いちばん興味深いところです。
「中国はAIに楽観的だから、リスクを気にしていない」
という単純な話ではありません。
KPMG・University of Melbourneの中国調査では、
67%がAIによるネガティブな結果を懸念。
51%がAIによるネガティブな結果を実際に経験、または目撃。
さらに、
70%が「AI生成コンテンツのため、オンライン情報を信頼できるか分からない」と回答。
86%は、AIによる偽情報への法整備や対策を求めています。
つまり、中国でもAIへの警戒感はかなり強い。
それでも同じ調査では、
68%がAIを信頼する意思がある。
92%がAI利用を受容・支持。
89%がAIによるさまざまなメリットを期待。
さらに、
78%が「AIツールを効果的に使える」と回答しています。
ここに、私は重要なヒントがあると思います。
「AIを信頼する」と「AIを警戒する」は、矛盾しない
AIに対する態度は、
「期待するか、不安になるか」
という二択ではないのかもしれません。
中国の調査を見ると、
AIのリスクを認識している。 それでも使う。 そして、使いこなす能力を身につけようとしている。
という姿が見えてきます。
これは企業のAI導入にも、そのまま当てはまると思います。
AIのリスクを無視して、とにかく使わせる。
これは危険です。
一方、「情報漏洩が怖い」「間違える可能性がある」「仕事を奪われるかもしれない」
という理由だけでAIを遠ざければ、組織としてのAI活用能力は育ちません。
必要なのは、
AI Literacy × AI Governance × AI Adoptionではないでしょうか。
使い方を学ぶ、リスクを理解する、ルールを作る。
その上で、実際の仕事で使う。
この循環を作れる企業と作れない企業で、数年後には大きな差が生まれる可能性があります。
中国87%、米国32%
そして、象徴的なのがEdelmanの調査です。
2025年秋、ブラジル、中国、ドイツ、英国、米国を対象に行われたAI調査では、
「AIを信頼する」
割合が、中国:87% ブラジル:67% ドイツ:39% 英国:36% 米国:32%
となりました。
中国と米国では、55ポイントの差。
ただ、Edelmanの調査でもう一つ興味深いのは、
AIについてポジティブな実体験を持つことと、AIへの信頼との関係です。
AIを実際に使い、学習や仕事、問題解決に役立つ経験をした人ほど、AIへの信頼が高い傾向が報告されています。
つまり、信頼しているから使う。 使って価値を実感するから、さらに信頼する。
そんな循環が存在する可能性があります。
これからの格差は「AIを持っているか」ではない
私は、今回の複数の調査を見て、最も重要なのはここだと思いました。
これからAIは、一部のテクノロジー企業だけが持つ特殊な技術ではなくなります。
ChatGPTをはじめ、同じようなAIツールを、多くの人が利用できる。
だとすれば、差が生まれるのは、
「AIを持っているか、持っていないか」ではありません。
「AIをどこまで使いこなせるか」です。
以前なら、一人ではできなかった仕事があります。
情報を集める、市場を調査する、データを分析する、アイデアを整理する、資料を作る、文章を書く。
AIによって、一人の人間が扱える「知的能力」の範囲は確実に広がっています。
そう考えると、これから人と人の差を生むものは、
「何人の部下を持っているか」ではなく、 「どれだけの知能を動かせるか」
になっていくのかもしれません。
経営者として、もう一つ考えたいこと
企業にとってAI導入の目的は、
「AIで何人減らせるか」
だけであってはいけないと思っています。
むしろ、「AIによって、一人ひとりの能力をどこまで拡張できるか」
を考えるべきではないでしょうか。
同時に、AIが若手の「入口の仕事」を代替するなら、
AI時代に若手をどう育てるのか。
これも経営課題になります。
AI導入、AI教育、AIガバナンス、そして、人材育成。
これらを別々に考えるのではなく、一つの経営システムとして設計する。
私は、それが「AIを導入した会社」と「AIを前提に再設計された会社」の違いになっていくと考えています。
AIを恐れるか、期待するか。その二択だけではありません。
リスクを理解しながら、どう使いこなすか。
これから問われるのは、そこなのではないでしょうか。
最後に、皆さんに聞いてみたいです。
今、より不安なのはどちらでしょうか。
「AIに自分の仕事を奪われること」ですか?
それとも、
「周囲がAIを使い始めているのに、自分だけが使いこなせていないこと」
でしょうか。
ぜひ、皆さんの考えを聞かせてください。
参考データ
Pew Research Center 「Young US adults are increasingly wary of AI, concerned it will take jobs」 2026年8月18日
Stanford Institute for Human-Centered AI 「AI Index Report 2025 / 2026 — Public Opinion」
Edelman 「2025 Edelman Trust Barometer Flash Poll: Trust and Artificial Intelligence at a Crossroads」
KPMG / University of Melbourne 「Trust, attitudes and use of artificial intelligence: A global study 2025」
※各調査は、調査対象・時期・質問文・「信頼」「利用」などの定義が異なります。本稿では異なる調査結果を同一指標として単純比較せず、それぞれが示すAIへの意識・利用・信頼の傾向をもとに考察しています。
この記事は2026年10月1日にLinkedInで公開したものです。LinkedInの元記事でコメントする
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