李鉉道SMHC株式会社 代表取締役

経営者になって気づいた。「口癖」は、会社の未来をつくっている。
最近、こんな言葉を目にしました。
「あなたの運は、あなたの言葉の中にある。」
少しスピリチュアルに聞こえるかもしれません。
「言葉のエネルギーで宇宙が動く」とまで言えば、私は科学的事実として受け取ることはできません。
でも、経営を続けていると、
「自分が日常的に使う言葉が、自分と組織の行動を変えていく」
ということは、かなり実感します。
これは、心理学の研究とも重なる部分があります。
米国心理学会(APA)は、ネガティブなセルフトークが、ネガティブな信念や態度を強化し、感情やモチベーションにも影響し得ると説明しています。
また、認知行動療法(CBT)の基本的な考え方の一つも、思考が感情に影響し、感情が行動に影響するというものです。
つまり、
言葉 → 思考 → 感情 → 行動
という連鎖は、単なる精神論として片づけるべきものではありません。
たとえば、問題が起きたとき。
「なぜ、こんなことになったんだ」
と言うのか。
それとも、
「ここから何を学べるだろう」
と言うのか。
起きた事実は同じです。
でも、その後の会議で出てくる言葉は変わります。
誰が悪かったのか。 なぜできなかったのか。
ではなく、
次はどうするのか。 何を変えるのか。 再発をどう防ぐのか。
へと、組織の思考が動き始めます。
これは経営でも同じです。
「人が足りない」 「景気が悪い」 「AIに仕事を奪われる」 「うちの会社には無理だ」
こうした言葉を経営者が毎日使っていたら、社員はどうなるでしょうか。
挑戦するより、「できない理由」を探す組織になってしまうかもしれません。
逆に、
「どうすればできる?」 「AIを使えば、どこまで変えられる?」 「この失敗から何を学ぶ?」 「次に試すことは何?」
という問いが日常になれば、組織が考える方向も変わっていく。
だから私は、
言葉は、単なるコミュニケーションではなく、組織を動かすOSの一部だ
と考えています。
ただし、「ポジティブ思考」だけでは危ない。
ここは経営者として、かなり重要だと思っています。
売上が落ちているのに、
「大丈夫。すべてうまくいく」
と言って数字を見なければ、それは前向きなのではなく、現実逃避です。
NYUのGabriele Oettingen教授らの研究でも、理想的な未来をポジティブに想像するだけでは十分ではなく、目標達成には「現実の障害」を認識し、具体的な行動につなげることの重要性が研究されています。
だから私が大切だと思うのは、
Optimism × Reality × Action
前向きな姿勢(ポジティブさ) × 現実の直視 × 即実行(アクション)
です。
未来には楽観的でいる。 現実の数字には厳しく向き合う。 そして、次の行動を決める。
この3つがセットになって初めて、言葉は力になる。
「自分ならできる」は、行動にも関係する。
心理学者Albert Banduraが提唱した「Self-Efficacy(自己効力感)」という考え方があります。
これは簡単に言えば、
「自分は、この行動を実行できる」
という自分自身の能力への信念です。
APAによれば、自己効力感は、目標設定、困難に直面したときの粘り強さ、ストレスへの対応など、幅広い行動との関連が研究されています。
そして自己効力感を形成する要因として、
・過去の成功体験 ・他者の成功を見ること ・周囲からの励ましや言葉 ・ストレスや感情の状態などが挙げられています。
つまり、リーダーが部下にかける言葉も、決して小さなものではありません。
失敗したとき、最初に何と言うか。
経営をしていると、失敗は必ずあります。
採用できなかった。 商談を失注した。 期待していたプロジェクトがうまくいかなかった。 優秀な人が会社を去った。
そんなとき、「最悪だった」で終わらせるのか。
それとも、
「この出来事は、会社に何を教えているのか?」
と問い直すのか。
この小さな違いが、1年、3年、10年と積み重なると、会社の文化そのものの差になっていくのではないでしょうか。
会社の文化は、立派なMVVだけでつくられるものではありません。
経営者が毎日どんな言葉を使うか。
管理職が部下にどんな問いを投げるか。
失敗した社員に最初に何と言うか。
そういう何気ない言葉の積み重ねが、組織文化になります。
AI時代になって、仕事の多くが自動化されても、
「何を問い、どう意味づけ、次にどう動くか」
を決めることは、人間に残る重要な役割だと思っています。
だからこそ私は、AI時代には「言葉の使い方」が、これまで以上に重要になると考えています。
最後に、自分自身への問いとして。
最近、自分は社員にどんな言葉を一番多く使っているだろうか?
「できない理由」を探す言葉なのか。
それとも、「では、どうすればできる?」
という言葉なのか。
経営者の口癖は、思っている以上に、会社の未来をつくっているのかもしれません。
参考データ・研究
1|American Psychological Association(APA)— Self-talk
APAはセルフトークを「自分自身に対して行う内的な対話」と定義し、ネガティブなセルフトークがネガティブな信念・態度を強化し、感情や反応にも影響し得ると説明しています。
APA Dictionary of Psychology — Self-talk
2|American Psychological Association — Healthy ways to handle life's stressors
APAは、CBT(認知行動療法)の考え方として、思考が感情に影響し、それが行動にも影響することを紹介し、ストレスに対する思考のリフレーミングを説明しています。
APA — Healthy ways to handle life's stressors
3|American Psychological Association — Self-Efficacy
Albert Banduraの自己効力感理論について、自己効力感と目標設定、困難への粘り強さ、ストレスへの対応などとの関係をAPAが解説しています。
APA — Self-efficacy: The theory at the heart of human agency
4|NYU Motivation Lab — Gabriele Oettingen
単純に「成功した未来」を想像するだけでなく、望む未来と現実の障害を対比させ、具体的な行動につなげる「Mental Contrasting」やWOOP(Wish・Outcome・Obstacle・Plan)に関する研究です。
NYU Motivation Lab — Gabriele Oettingen Publications
5|NYU Motivation Lab — Peter Gollwitzer
目標設定だけでなく、「いつ・どこで・どのように行動するか」を具体化するImplementation Intentions(実行意図)など、目標を実際の行動につなげる研究がまとめられています。
NYU Motivation Lab — Peter Gollwitzer Publications
※本稿における「言葉が運命を変える」という表現は比喩です。「宇宙のエネルギー」や「言葉そのものが幸運・不運を引き寄せる」という主張を科学的事実として扱っているものではありません。
#経営 #リーダーシップ #組織文化 #マネジメント #AI時代 #セルフトーク #自己効力感
この記事は2026年9月30日にLinkedInで公開したものです。LinkedInの元記事でコメントする
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