李鉉道SMHC株式会社 代表取締役

職種の境界が消える。AI時代、企業が本当に必要とする人材とは
「コンサルタント」か、「エンジニア」か。
この二択そのものが、AI時代には意味を失い始めているのかもしれません。
マッキンゼー、BCG、PwC、デロイト、EY、KPMG。
世界のトップコンサルティング会社で今起きているのは、単なる「AI人材の採用強化」ではありません。
私は、もっと大きな変化だと考えています。
職種の境界が消え始めている。
そしてこれは、コンサルティング業界だけの話ではありません。
これからIT企業の採用、育成、評価、そして組織そのものを変えていく可能性があります。
「提案する人」から「成果が出るまで実装する人」へ
Business Insider Japanの記事を読んで、最も重要だと感じたのはここです。
従来のコンサルティングでは、
調査する。 分析する。 戦略を考える。 資料にまとめる。 クライアントに提案する。
こうした仕事が大きな価値を持っていました。
しかしAIは、情報収集、要約、分析、資料作成、コード生成などを急速に支援できるようになっています。
その結果、顧客が求める価値も変わり始めています。
「何をすべきか教えてほしい」から、 「実際に作って、導入して、成果が出るところまでやってほしい」へ。
Business Insider Japanによれば、純粋なアドバイザリー業務から、企業向けツールの構築・導入・保守へと仕事の重心が移り、トップコンサルティング会社では技術人材の重要性が高まっています。
アクセンチュアでは過去2年間でAI・データ専門家を約4万人増員。
EYでは2023年以降、6万1000人の技術者を追加採用したと報じられています。
さらに人材分析企業Revelio Labsのデータでは、マッキンゼーで「AIエンジニア」がエントリー職以外で最も成長著しい職種になっています。
これはかなり象徴的な変化です。
BCGは「コンサル会社の中にテック企業」を作る
BCGでも、ソフトウェアエンジニア、フロントエンド開発者、Python開発者などの採用が伸びています。
その中心となっているのが、2022年末に立ち上げられた技術・AI部門「BCG X」です。
BCG Xのグローバルリーダー、シルヴァン・デュラントン氏はBusiness Insiderに、
「我々はコンサルティング企業内にテック企業を構築している」
という趣旨の発言をしています。
この言葉は、AI時代のコンサルティング業界の変化を非常によく表していると思います。
つまり、
Advisoryだけではなく、 Advisory × Build × Deploy × Operateへ。
「正解を提案する会社」から、
「正解を一緒に作り、実装する会社」へ。
競争軸が変わり始めています。
マッキンゼーが求める「5X人材」
さらに興味深いのが、マッキンゼーの人材戦略です。
同社のAI部門QuantumBlackの共同責任者アレックス・シングラ氏によれば、求めているのは、
優秀なコンサルタントにも、優秀な技術者にもなれる人材。
そして同氏は「5X人材」という考え方にも言及しています。
一つの領域に深い専門性を持ちながら、3〜4の異なる領域でも高い能力を発揮できる人材です。
さらにBusiness Insider Japanの記事では、マッキンゼーのAI関連の取り組みが同社業務の40%を占めると報じられています。
ここから見えてくるのは、
純粋なエンジニアでもない。 純粋なコンサルタントでもない。
両方の世界を行き来できる人材への需要です。
私はこれから、
Business × Technology × AI × Execution
を横断できる人材の市場価値が、さらに高くなると考えています。
エンジニアにも「コンサルティング能力」が必要になる
これはコンサルティング業界だけの話ではありません。
エンジニア側にも同じ変化が起きます。
これまで、
「Java経験5年」
「AWS経験3年」
「Pythonが使える」
といった技術経験は、人材価値を測る重要な基準でした。
もちろん、これからも専門性は重要です。
しかしAIがコーディング、テスト、ドキュメント作成、調査、設計などを強力に支援するようになるほど、
「どう作るか」だけでは差別化が難しくなる。
代わりに重要になるのが、
「何を作るべきか」を考える力です。
顧客が言ったことをそのままシステム化するのではなく、
「本当の経営課題は何か」
「どの業務を変えるべきか」
「そもそもAIを使うべきなのか」
「どうすれば売上・利益・生産性・顧客体験につながるのか」
まで考える。
つまり、
エンジニアは、技術を提供する人から、成果を設計する人へ。
この変化は非常に大きいと思います。
逆に、コンサルタントにも「実装力」が必要になる
当然、逆方向の変化も起こります。
「分析できます」
「戦略を作れます」
「資料を作れます」
だけでは、AI時代の差別化は難しくなっていくでしょう。
AIエージェントを使う。
データを扱う。
APIの仕組みを理解する。
プロトタイプを作る。
AIの出力を検証する。
セキュリティやガバナンスを理解する。
少なくとも、エンジニアと共通言語で議論できる。
つまり、
エンジニアはビジネス側へ。 コンサルタントはテクノロジー側へ。
双方が中央へ近づいています。
だからといって「全社員をAIエンジニアにする」のは違う
ここは経営者として重要なポイントだと思っています。
AI時代だからといって、
全社員にPythonを書かせる必要はありません。
むしろ必要なのは、組織全体のAIリテラシーを底上げし、その上に高度な専門人材を配置することです。
実際、Business Insider Japanの記事でも、大手各社は「採用」だけでなく「既存社員の再教育」に大きく動いています。
EYでは、AIエンジニアリング、応用AI、AIコンプライアンスなどを含む15時間のコースを展開。
記事掲載時点で、全従業員の約4分の1に当たる約10万人がコースを修了し、「AIバッジ」を取得したとされています。
PwC、KPMG、デロイトもAIスキル向上への投資を進めています。
私は企業のAI人材を、3層で考えるべきだと思います。
Layer 1|AI Literacy
全社員がAIを安全に日常業務で使える。
Layer 2|AI Application
自分の業務をAIで再設計し、エージェントや自動化を活用できる。
Layer 3|AI Engineering / FDE
顧客課題からAIシステムを設計・構築し、本番環境で成果まで実装できる。
目指すべきなのは、
「全員をAIエンジニアにすること」ではなく、 「全員をAIネイティブにすること」。
その上で、一部の人材を高度なAI・エンジニアリング人材へ育成する。
これが現実的なAI人材戦略だと考えています。
そして最後に差がつくのは「人間力」
ここが面白いところです。
技術の重要性が高まるほど、
人間にしかできない能力の価値も高くなる。
Business Insider Japanの記事でも、大手コンサルティング会社のリーダーたちは、
コミュニケーション能力、協調性、判断力、回復力、迅速な学習能力、EQなどを重視していると語っています。
つまり、AI時代の優秀な人材とは、
AIより多くの知識を持っている人ではありません。
AIを使いながら、
問いを立てる。
人を動かす。
異なる専門性をつなぐ。
不確実な状況で判断する。
そして、成果が出るところまでやり切る。
そういう人なのだと思います。
AI時代に消えるのは「仕事」ではなく、「職種の境界線」かもしれない
コンサルタント。
エンジニア。
データサイエンティスト。
プロダクトマネージャー。
営業。
これまで企業は、人材を「職種」という箱に入れて組織を作ってきました。
しかしAIは、その境界線を曖昧にしています。
これから市場価値が高くなるのは、
一つの職種の中だけで優秀な人ではない。
専門性を持ちながら、
Business × Technology × AI × Human Skills
をつなぎ、
「成果まで実装できる人」
ではないでしょうか。
前回の記事では、
「AI時代、人材を何で評価するのか」
について書きました。
今回考えたいのは、その次です。
「その人は何の職種なのか?」ではなく、 「AIと専門性を組み合わせて、どんな価値を生み出せる人なのか?」
企業の採用基準も、人事評価も、キャリア設計も、
そろそろこの問いから再設計する時期に来ているのかもしれません。
皆さんの会社では、AI時代の人材をどのように育成・評価していますか?
ぜひ皆さんの考えも聞かせてください。
参考・出典
Business Insider Japan 「マッキンゼー、PwC、デロイトといったトップコンサルティング会社がエンジニアの採用を急ぐ理由…そして他の全社員にAIを学ばせる方法」 2025年12月31日公開
※本稿は上記記事で紹介された企業動向・発言・データを参考に、AI時代の人材戦略・組織戦略について筆者の視点から考察・再構成したものです。
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この記事は2026年8月24日にLinkedInで公開したものです。LinkedInの元記事でコメントする
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