李鉉道SMHC株式会社 代表取締役

目次
もし、2026年の私たちが突然2036年に送られたら、何に一番驚くでしょうか。
街中のロボットでしょうか。
空を飛ぶ自動車でしょうか。
私は、もっと静かで、しかし本質的な変化だと思います。
「自分で操作する」という行為が、社会から少しずつ消えていることです。
2036年——朝起きる前に、AI同士が仕事を進めている
朝、目を覚ます。
AIはすでに睡眠状態、スケジュール、仕事の進捗を確認し、午前中の予定を組み直している。
9時だった会議は10時へ変更。
なぜなら、あなたが眠っている間に、あなたのAI Agentと相手側のAgentが必要な情報交換を済ませ、人間同士で話すべき論点だけを残しているからです。
昨夜、Business Agentは17種類の広告をテストし、成果の悪い12種類を停止。
Health Agentは最近の睡眠状態を分析し、予定していた高強度トレーニングをリカバリーへ変更する。
その頃には、誰もこれを「すごいAI」とは呼ばなくなっているかもしれません。
私たちが毎日、
「家に電気があるなんてすごい」
と思わないのと同じです。
AIは「特別な技術」から、電気やインターネットのような「前提となるインフラ」へ変わっていく。
もちろん、ここまでの2036年の描写は未来シナリオです。
しかし、その方向を示す変化は、すでに始まっています。
AIが下げているのは「知能のコスト」
過去200年、テクノロジーはさまざまなコストを下げてきました。
蒸気機関は「力」のコストを下げた。
インターネットは「情報」のコストを下げた。
クラウドは「計算資源」のコストを下げた。
そしてAIが大きく下げようとしているのは、
「知能のコスト」
ではないでしょうか。
Stanford Universityの「AI Index Report 2025」によると、GPT-3.5相当性能のモデルを利用する推論コストは、2022年11月から2024年10月までに280分の1以下へ低下しました。
これまで、高品質な認知能力は基本的に人間からしか得られませんでした。
ソフトウェア開発にはエンジニア。
分析にはアナリスト。
法律判断には法律の専門家。
そして、人間の時間は簡単には複製できません。
生成AIとAI Agentは、この制約を変え始めています。
つまり、2036年に重要なのは、
「何人雇用しているか」だけではなく、 「どれだけの知能を組織として利用できるか」
になる可能性があります。
社員3人、AI Agent 300体の会社
2036年のスタートアップを想像してみます。
社員は3人。
しかし、その3人が300のAI Agentを管理している。
創業者が、
「ブラジル市場への進出を検討しよう」
と指示する。
Research Agentが市場を分析する。
Legal Agentが現地規制を確認する。
Coding Agentが製品をローカライズする。
Marketing Agentが広告を制作・テストする。
Finance Agentが投資回収シナリオを計算する。
24時間後、人間が判断するのは、
「進出するのか」 「いくら投資するのか」 「どこまでリスクを取るのか」
という経営判断です。
「3人+300 Agent」という数字自体は未来を説明するための仮説であり、現在の事実ではありません。
しかし、Human-Agent型組織への移行そのものは、すでに議論の段階を超え始めています。
Microsoftの「2025 Annual Work Trend Index」では、82%のリーダーが今後12〜18カ月以内にデジタル労働力を活用して組織能力を拡大すると回答しています。
Microsoftは、人間がAI Agentを構築・委任・管理する役割を**「Agent Boss」**と表現しています。
McKinseyも、人間とAI Agentが協働する次世代組織を「Agentic Organization」として論じています。
つまり、これは単なる「AIツール導入」の話ではありません。
会社そのものを再設計する話です。
経営者として考えていること
これまでの会社は、
「多くの人間 + 少量のソフトウェア」
で成り立っていました。
これからは、
「少数精鋭の人間 + 大量のAI Agent」
という会社が増えていく可能性があります。
ここで重要なのは、
「社員に生成AIを使わせているか?」
ではないと思います。
経営者が考えるべきなのは、
誰の仕事をAIに置き換えるかではなく、 人間とAIをどう組み合わせれば組織能力を最大化できるか。
です。
Research Agent。
Sales Agent。
Coding Agent。
Finance Agent。
HR Agent。
Management Agent。
これらを単体で使うのではなく、企業の業務プロセスとして接続する。
そして、人間は、
Purpose(何を実現するのか) Judgment(何を選択するのか) Risk(どこまでリスクを取るのか) Responsibility(誰が責任を持つのか)
を担う。
AIが高度になればなるほど、私はこの4つが重要になると考えています。
本当のAI格差は「使う人/使わない人」ではない
2036年には、ほとんどの人がAIを使っているかもしれません。
それでも、生産性には大きな差が生まれるでしょう。
ある人は、
「これを要約して」
とAIに頼んでいる。
別の人は、
Research Agent ↓ Strategy Agent ↓ Execution Agent ↓ Review Agent ↓ Feedback Loop
まで構築している。
同じAIモデルを使っていても、生産性はまったく違う。
だからAI時代に本当に重要になる能力は、
「プロンプトを書く能力」だけではない。
複数の知能を、一つの目的に向かって組織化する能力。
私はここに、人材と企業の新しい競争力が生まれると考えています。
そして、人間の価値はむしろ上がる
AIは100個の戦略を作れるようになるでしょう。
しかし、
どれを選ぶのか。
なぜ選ぶのか。
どこまでリスクを取るのか。
誰のためにやるのか。
誰が最後に責任を負うのか。
そこには、人間が残ります。
AIが完璧に近いコンテンツを大量生成できるようになればなるほど、
「本物であること」 「審美眼」 「人格」 「信頼」 「責任」
といった人間的価値は、逆に希少になるのではないでしょうか。
AI革命の本質は、
メールを10倍速く書けることでも、
PowerPointを10倍速く作れることでも、
コードを10倍速く書けることでもない。
もっと大きな変化です。
人類史上初めて、「知能そのもの」が大量に複製可能な経営資源になり始めた。
10年後。
人と人。
会社と会社。
そして国家と国家。
その差を生むものは、
「どれだけAIを持っているか」ではなく、 「どれだけ上手に知能を組織し、価値へ変換できるか」
なのかもしれません。
2026年。
この変化は、まだ始まったばかりです。
皆さんは、どちらが先に実現すると思いますか?
A:3人で300のAI Agentを動かす会社
それとも、
B:「アプリを開く」という行為そのものがなくなる世界
10年後、会社や仕事はどう変わっていると思いますか?
ぜひ皆さんの意見をコメントで聞かせてください。
参考資料・ファクトチェック
本記事の「2036年」「3人+300 Agent」などの描写は、現在のAI・AI Agentの進化をもとにした未来シナリオであり、将来を断定するものではありません。
■ Stanford University|AI Index Report 2025 AIモデルの性能向上、利用コストの急速な低下など。 hai.stanford.edu
■ Microsoft|2025 Annual Work Trend Index Frontier Firm、Human-Agent Teams、Agent Bossなど、人間とAI Agentが協働する組織モデルについて。 microsoft.com
■ McKinsey & Company|The agentic organization 人間とAI Agentが協働する次世代組織「Agentic Organization」について。 mckinsey.com
■ Anthropic|Anthropic Economic Index AI利用におけるAutomationとAugmentationなど、AIが実際の仕事でどのように利用されているかについて。 anthropic.com
※「AI同士が80%の情報交換を済ませる」「17種類の広告を自動テストする」「3人で300 Agentを管理する」といった具体的描写は、未来を考えるためのシナリオとして記載しています。
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この記事は2026年8月31日にLinkedInで公開したものです。LinkedInの元記事でコメントする
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